トラスト・ミー [3]


635 :歌唄い ◆sOE8MwuFMg :2005/07/03(日) 15:58:48 

「はぁ〜あ」
陣内から苛ついたような溜息が漏れた。
「もぉ、何で邪魔すんねん」
がしがしとその明るい茶髪を掻き上げ、ぼそりと呟く。ふっ、と頭上に川島の
影が掛かった。上を見上げると、怒りを含んだ眼と視線がぶつかった。一瞬気
圧されて肩がびくっと揺れ、息を飲んだ。だがそれも一瞬の事で、陣内は服に
付いた砂や小石をはたきながら立ち上がる。そして負けじと目の前の『影男』をキッと見上げた。

「…………」
二人はお互いを強い眼差しでにらみ合った。さっきまで月を覆っていた雲が引き、
お互いの手に握られていた石が光を反射する。
―――― 一秒一秒がとんでもなく長く感じられた。

「何であなたみたいな人がっ…」
何処か悲しげで、辛そうな声で川島が尋ねた。
「こんな危ない石、あなたが持つべきやない」
「危ない?」
それを突き放すような、いつもの彼からは考えられない程の冷たい声。
「あんなぁ、襲ってきたんはあいつらやで。正当防衛やん俺悪くないやん」
「自分が何しとんのか分かってるんですか」
「な…何怒ってんねん……?」
本当に訳が分からないとでも言った風に、陣内は不思議そうに川島を見る。
まるで善悪の区別がないいじめっ子の子供の様だ。
「分からないんですか…はぁ…ホンマに、陣内さんって…」
諦めの溜息を吐き、肩を落とす。陣内はぷいと顔を背けた。
川島は無言で鞄を拾い上げると、すたすたと歩き陣内の横を通り過ぎようとする。
お互い眼を合わさずに。

「分からないなら俺が理解させてやりますわ」
ちょうど陣内の真横に来たとき、擦れ違うその瞬間に、小さな声で呟いた。

「アンタのしてることは“悪いこと”やって」

「…………!」
余裕を含んだその口調に、陣内は歯をぎりっと鳴らして悔しそうに拳を握った。
勢いよく川島を振り返ると、もう影に潜ってしまったのか。そこには誰も居なく、
陣内は完全に独りになっていた。

「あいつ…覚えとけよ…絶対酷い目に合わせたる…」
陣内の口から出たその憎しみの言葉は、感情の勢いで出たものなのか、それとも本心なのか。
それは彼自身にしか分からないが。
強く握り締められているムーンストーンは、前よりほんの少しだけ、黒くなった。


誰も居なくなったボロボロの公園に一陣の風が吹く。
辺りが次第に薄明るくなり、チチ…と雀の鳴く声が聞こえた。建物の間からちらりと太陽がのぞいた。
明かりはだんだん強くなり、次の瞬間、公園は眩しいばかりのオレンジ色の朝の光に飲まれた。

近所の住民が公園の掃除をしにやってくる頃には、公園は完全なまでに元通りになっていた。
 [陣内智則 能力]