はじまりのはじまり


588 名前:アンジャショートショート:「はじまりのはじまり」 投稿日:04/09/13 23:52:05

閉じていた目をふっと開け、渡部がつぶやいた。
「・・・・・・・・・やめろよ、それ。すげぇ疲れんだろ」
児嶋が煙草の煙を吐きながら言うと、渡部はくつくつ笑った。
「大丈夫だよ、ちょっとだけだから・・・・・・それにコレ、すげぇ面白いぜ?」
シャツの中から、細身のペンダントに仕立てた石を引っ張り出した。
シルバーの台座にはめ込まれたそれは、澄んだ光を放つ。
「明らかにこの石の力だよな・・・・・・うわ、山崎はやめとこ。柴田の声めちゃめちゃうるさいわ」

人力舎の悪魔が、本当のアクマになっちゃったな、と児嶋は密かに思った。

それにしても・・・・・・と、ゴツめのシルバーチェーンブレスレットにさりげなく埋め込まれた自分の石を見つめる。
石は、白く鈍い光を放ちながら、それでいて何色もの色を隠し持っていた。
自分には似合わないかもな、と児嶋は苦笑を漏らした。
2人の元に同時期に転がり込んできた石。そしてほどなく、渡部にはあの能力が宿った。
そして自分の石は・・・・・・
未だに沈黙したままだ。児嶋は、畏れと希望とを混じらせながら、待っていた。


この石はいつ、どんな形で、自分に力を宿らせるのか。


「・・・・・・わっかんねぇな」ため息混じりの煙が舞い上がる。
「だーいじょうぶだって、近いうちになんか強力な能力が身につくかもしんないぜ?
 児嶋だったら、麻雀が強くなるとか」
「なんだよその能力は・・・・・・って言うか渡部、お前今力使っただろ!?」
「使ってねぇよ。それより児嶋、煙草一本くれよ。お前の、結構イケんじゃん」
「やっぱ使ってんじゃねぇか!!」

自分の五感を探られるのがイヤだから怒ってるんじゃない。以前力に目覚めたばかりの渡部が、
限界以上の力を使い切ってしまい、倒れたまま10時間以上も眠りこけたことがある。
その時、自分がどれほど心配したか、渡部は知らないだろう。

わりぃわりぃ、と悪びれた様子も無く、渡部はカバンから小さなつつみをいくつか取り出して、
ひとつを口に放り込んだ。
「何・・・・・・アメ?」
「うん。こないだ須知さんに貰ったんだ。疲れが取れるって。本当に効くよコレ。児嶋も食えよ」
アメをもごもごさせながら渡部が答える。
「・・・アメで疲れが取れるって・・・なんか怪しいモンでも入ってんじゃねぇの?」
「さぁ?よくわかんないけど、木部さんの自家製だって須知さん言ってた」
「自家製!?・・・俺絶対いらねー・・・・・・」
「そんなこというなよ・・・・・・ほら」

児嶋の掌を上に向けさせて、少しうつむいて渡部は呟いた。

「俺だって心配なんだよ・・・・・・・・・・・・お前のことが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

渡部の手から放たれたアメ玉は、児嶋の掌を通り抜け、ことりと落ちた。



                                          end
 [アンジャッシュ 能力]