235 :Where,here ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:10:11
あるバラエティー番組が収録されている某テレビ局のスタジオ。 各自がそれぞれの仕事をこなし、順調に進んでいたはずのその進行に異変が起きたのは、ちょうど撮影スケジュールを半分ほど過ぎたころだった。 「…で、その辺有野さんは…。……えっ?」 「…………」 「……、一旦止めます!」 司会を務める女子アナウンサーの声が戸惑いを残して中途半端に消え、場に不自然な空白が空いた。 スタッフが慌てたように指示を飛ばす。芸人のやりとりに笑いが起きていた舞台裏が、急にどたばたしはじめた。 それというのも番組に出演していたよゐこの大きい方こと有野晋哉が、なぜかその場から消えていたからだ。さっきまでは確かに(積極的に前に出ているわけではなかったが)何度か発言もしていたというのに。 「有野さんは?有野さんどこ行っちゃったんだ!?」 大勢の目が集まる収録中に姿を消すことなど普通に考えればできるはずがないのだが、現に有野の姿は見当たらない。予想外の事態に混乱するスタッフをちらっと見て、ぽつんと取り残された格好の有野の相方・濱口優は困ったように頭を掻き、ふと自分の左側へ顔を向けた。 「…やっぱりおかしなことになってるで」 「……うん…」 彼の言葉に返事をしたのは今目下捜索されているはずの、有野だった。 状況を説明するには数時間前までさかのぼる必要がある。 “黒側の連中に襲われたので、石を使って撃退した” 話はそれだけなのだが、「石を使った」こと自体が有野にとっては誤算だった。本当はそんなもん使わんで逃げたらよかった、というのが本音だ。 数で攻められ、濱口の能力だけでは対応しきれなかったというやむを得ない事情からだったが−ともかく有野は自分の能力を使い、襲ってきた人々にすみやかにご退場を願った。 最後の1人が気を失うのを確認し、ふう、と息をついた有野は、すでに身体を覆う不快な倦怠感に嫌な予感をつのらせながら、念のために濱口にこう尋ねた。 「………どう?」 「…うん、薄い」 「………」 有野の能力は影を操ること。 そしてエネルギーの消費による負荷は、文字通り「影が薄くなる」ことだった。 時間を現在に戻そう。 つまりはじめからイスに座ったまま一歩も動いていない有野は、存在感の極端な欠如によって、いなくなった、と周りに思い込まれているのだった。 途中まではなんとか目立たない程度で済んでいたものの、微妙に収録が長引いたせいで気力がさらに減少したのか、彼の気配は今、それはもう見事に消えていた。何度か「ここにいますけどー」と呼び掛けてみたが、その声もどうやら認知されていないらしい。 濱口は有野の石のことをよく知っていたし、それになにより相方であるから本当はそこにいるのだと正しく認識できていたが、さすがにこの妙な状況を解決する手段までは持っていなかった。 有野が「見つからない」こともあり(この知らせを聞いて有野の両肩がガクンと下がったのを濱口は見た)収録はそのままなし崩し的に休憩時間に入った。 共演者の1人が事情を飲み込めない顔のまま濱口に「相方どうしちゃったんだろうねえ」などと声を掛けてくる。濱口はねえ、と曖昧に笑い、傍らの有野にこっそり合図を送ってスタジオを抜け出した。 「…アカンな、完っ全にお前の気配消えとるわ」 「もぉ…腹立つわー、人の目の前で『有野さん?有野さん!?』て…俺ここにおるっちゅうねん!」 「ははは」 「いや、笑わんといてよ…どうしよかなぁ」 行った先はスタジオ前にある廊下の突き当たり。相方の心底困った声とぐったりした横顔に、濱口はようやく笑いを飲み込んだ。 確かに何の断りもなく番組中に「いなくなった」と思われているのはあまり歓迎すべき状況ではなかった。番組の進行云々だけでなく責任が問われる話にもなる。 有野の目の前で有野がいなくなったことに関して自分だけが怒られている情景が頭に浮かび、濱口はややこしくなってきたな、と眉を寄せて呟いた。 「どうしたらええの?それ」 「うーん、もうちょっと気力戻ったら多分、みんなに気付いてもらえるぐらいにはなると思うねんけど」 有野は自分の言葉に自分で傷付いたような表情を浮かべる。 と、揃ってため息をついた彼らに声を掛ける者がいた。 「おう、何やってんだ?2人して」 「カトさん…」 2人の目の前には深夜からゴールデンに至るまでずっと共演してきた仲間であり付き合いの長い男、極楽とんぼの加藤浩次が立っていた。 「そっか、お前らこっちで収録やってんのな」 聞けば加藤は隣のスタジオで別番組の収録に参加しており、偶然そちらも休憩に入ったところらしい。 相変わらず慌ただしいスタッフの出入りを不思議そうに眺める彼に、濱口がここまでの状況を簡単に説明する。 「…あー、石か。有野のあれ、そういう意味じゃ一番きっつい副作用だよなあ」 冗談じゃねえよな正当防衛だっつうのに。 乱暴だが気遣うように声をかけてくれる加藤の目がちゃんと自分の姿を見ていることに安堵しながら、有野は僕どうしたらいいっすかね、と途方に暮れた声を出した。 「このまんまやったら絶対2人とも怒られるんですよね」 「えー、おかしいって!有野ここおるやんけ!」 「そりゃ納得いかねえわ…よし、ちょっと待っとけ」 加藤はバタバタとスタジオの方へ駆け出していき、ほどなくして手に紙コップを持って戻ってきた。 「気力が戻りゃいいんだろ?ちょっと強引だけど、多分これで元気は出るから」 そう言ってポケットから何かを掴み出すと、目を閉じて意識を集中する。 すると加藤の手の中で濃淡のある灰色の光が輝いた。2人の持つそれぞれの石に独特の波動が伝わる。 「「あ」」 濱口が目を丸くし、有野がカトさんも持ってたんや、と呟く。 光が収まると加藤はコップの中身を確かめ、よし、と頷いてそれを有野に差し出した。 「…何すか?これ」 「俺の石な、液体なら何でも酒にできんだ。で、飲みゃ気力も体力も回復すんの。飲んどけ」 収録中に酒入れるのはあれだけど、この状況なら仕方ねえだろ。加藤はそう続ける。 有野はおそるおそる中の液体を少しだけ飲み、「わっ、ほんまに酒や」と驚いて目を見張った。 「マジで?すごいやん、カトさん!有野ちょっと俺にも飲まして!」 「バカ、やめとけ!お前酒弱えだろ、飲めない奴には逆効果なんだよ!」 それにお前は十分元気だろうが−あわてて止められた濱口が不服そうな表情を浮かべる中、有野はコップに入った分をすべて飲み干し、はあ、とひとつ息を吐いた。 身体の中を液体が通っていく感じに続いて、そこからエネルギーが全身へ浸透していくような感覚が広がる。 面白い味やけどけっこううまいな、などとのんきなことを考えているうちに、まとわりついていた独特の疲労感は次第に薄まり、やがて消えていった。 「あ…なんか効いてきた。ありがとう、カトさん」 「おう。多少存在感出てきたぞ」 「マジっすか。早いなあ」 有野が苦笑するのと同時に、「あーー!!」と大声がその廊下に響き、3人は思わずビクっと身を固くする。 何事かと振り返ってみれば、スタッフの1人が有野の方を指差してわたわたと叫んでいた。 「あ、有野さん!!どこ行ってたんですか!?探したんすよお!」 「え、いや、俺どこにも行ってへんよ?」 「うわーよかったあ!有野さん見つかりましたー!確保しましたーー!!」 有野の声など耳に入っていない様子のその若いADは、興奮した声で報告しながらスタジオへ走っていく。 「…確保されてもうたな」 「まあ、これで大丈夫だな」 「俺犯人ちゃうわぁ…」 うんざりした顔で呟く有野を横目に、濱口と加藤は思わず顔を見合わせて笑ってしまう。 「再開しまーす!」 活気に満ちた声がスタジオ内から聞こえる。3人はじゃあ、と挨拶を交わし、それぞれの仕事場へと戻っていった。 共演者やスタッフに適当な理由を説明して頭を下げ(しかし濱口にだけ聞こえる声で有野は「理不尽や」と呟いた)その後は何のトラブルも起きることなく、収録は終了した。 余談だがその番組が放送されたころ、それまでいつも以上に地味だった有野がある地点から急に目立ち始め、いつになく積極的に発言も重ねていたので、笑いつつも「珍しいこともあるもんだ」と首を傾げた視聴者も多かったという噂だ。 最も彼がなぜ唐突にそんな存在感を発揮したのか−アルコールが入ると有野はたまにとても活発になるのだが−その理由は本人たちと加藤しか、知り得ないことなのだけれど。 |
241 :Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:23:37
有野晋哉(よゐこ)
石:テクタイト(隕石の衝突によって生じた黒色の天然ガラス。石言葉は霊性)
能力:自分の影を実体化(多少なら変形も可)させて操る。または影と同化して移動する
(※気力を大幅に消費する)。
条件:自分に影ができていること。影の濃さは強さと比例し、その時の影の長さで伸ばせる限度が変わる。
同化しての移動はあくまで平面的なものに限られ(空間は移動できない)
他の大きな影に入ったりすると解除される。
同化と同時に影の操作は不可能。
自分の完全な同意者であれば、他者の影を使用したり一緒に影と同化することができる。
気力が減ると吐き気・頭痛など体調が悪化するほか、存在感が薄れ他人に認知されなくなる
(いてもいないと思われるので、無視されたような状態になる)。
ただし有野と近しい人物はその影響を受けにくい。
加藤浩次(極楽とんぼ)
石:デンドライト(体外のエネルギーやチャクラのエネルギーを動かし、
足から頭まで肉体的なレベルに調和をもたらし、悪い部分を癒す)
能力:水その他の液体を、治癒力を持つ酒に変える。
条件:あくまで元々ある液体を変化させるので、液体が何もない状態では不可能。
液体であれば、それがジュースであろうと泥水であろうと薬液であろうと酒に変えられる。
作り出された酒は肉体疲労・精神疲労に効果をもたらす。軽い怪我程度ならば治せる。
自分にも他人にも効果はあるが、酒を飲めない人に飲ませると治癒効果は発揮されず泥酔させてしまう。
代償:適量以上を摂取した場合、逆に疲労感や強い酩酊感を感じ、眠りに誘われる。
自分が飲める限度までの量の酒を作ることができるが、作れば作るだけ次の日の二日酔いがひどくなる。
以上になります。濱口さんの能力が出てこなかった…
彼らはなんとなく争いを静観(または回避)していそうな気がしたので、
とりあえず中立のつもりで書いてみました。
それでは、失礼しました!
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