願い人 [3]


271 :クルス ◆pSAKH3pHwc :2005/10/28(金) 17:14:29 

外は相変わらずの悪天候。雨と泥にまみれた2人は何処か店に入ることも出来ず、金成の家に一時避難していた。 
「お前の服ぶかぶか〜」 
「しょうがねーだろ、お前小さいんだから」 
関は金成から借りたシャツの袖をぶらぶらさせながらブーブーと文句を言う。 
「それよりも、今は話すことがあるだろ」 
関の肩がびくりと揺れる。それを誤魔化すように雨の打ちつける窓の外を見やった関の前に金成は座った。 
テーブルに置かれたコーヒーカップから立ち上る湯気が2人の間を通り抜け、空へ上ってゆく。 
「ピースの事だろ」 
ぶっきらぼうに、しかし悲しそうに関は言った。 
「吉本の会社がでか過ぎるのも問題だな。
誰が黒で、誰が白なのか、どこまで石が伝わってるのか全く検討も付かない」 
ああ、と関は頷く。正直、予想外の展開ではあった。 
又吉と割と交流があった関にとって、今回の事はショック以外の何物でもない。 
金成も綾部とは仲良くしていた。それがこんな形で敵対することになってしまうとは。
今更ながら石の存在を恨めしく思う。 
「…他に、誰が黒なんだろう」 
ポツリと呟いた関の言葉は、静かな部屋にいやに大きく響いた。 
それは2人の、いや、白のユニット全員の疑問でもある。黒に誰が居て、どんな仕組みになっているのか。 
もしかしたら白は、ほぼ何も分かっていないのかもしれない。 

その時だった。関の携帯からメロディが流れ出し、着信が入った事を告げた。 
液晶画面に記された相手は「又吉直樹」 
関はそれを見て目を見開いた。金成に見せると、口元だけで出るぞと伝える。そっと通話のスイッチを押した。 
「…もしもし?」 
<…関さん?> 
「何の用だ?黒のユニットに入れ、って話は聞かねぇぞ」 
金成も横で聞き耳を立てる。 
<いえ。違いますよ。…金成さんも近くに居ますね?> 
次の瞬間、関の手から携帯が滑り落ち、横に倒れた。驚いて関を抱き起こそうとした金成も、
電話口からの声を聴いた瞬間、同じように意識を失った。 


「…ここは…」 
「何でこんなとこに…」 
気がつくと2人は辺りが真っ白な壁で囲まれた部屋に居た。おろおろとしていると、ゆっくりと部屋の扉が開く。 
「ハロバイさん」 
又吉が、2人の目の前に居た。慌てて関は石を発動させようとするが、
何故か手首の石はなんの輝きも持たぬまま、ただの宝石と化しているようだった。 
「ここでは石は使えませんよ。俺の『物語』の中ですから」 
そう言った又吉はにっこりと笑った。 
「やっと落ち着いて話が出来ますね」 
「な、何だよ…」 
警戒する二人を前に、又吉は自分が黒に入った経緯を話し出した。 
綾部が「説得」されてしまった事。そして自分はその綾部を守るために黒に居る事。
そして黒に関して知っている情報を全て語った。 
「…俺は正直どっちでも良いんです。白でも黒でも。だけど人は傷つけたくない…」 
辛そうな表情を見せる又吉に、ハロバイの2人も警戒心が少し薄れた。 
「何で、それを俺らに伝えるんだ?伝えるなら白の幹部の方が…」 
わかりません、と又吉は首を横に振る。 
「でも、お2人に話したかったんです。
1人じゃ駄目な願いでも、3人なら叶うような…そんな気がしたのかもしれないです」 
「……」 
「この話を信じるも信じないもハロバイさんの自由です。ただ、俺はお二人の事、信用してますから」 
絶対黒に入らないでくださいね、と続けた。 
「それじゃあ。俺はもう行きます。あまり長い間物語の中には居られないので」 
と、扉を開けて又吉は出て行った。その瞬間、2人は引き戻されるように目を覚ました。 
辺りを見回すと金成の部屋。コーヒーが冷めてしまってはいるが、それ以外は何も変わっていなかった。
落ちた携帯電話からツーツーと電子音が響く。 
「関…」 
「うん…」 
又吉を信じよう、と思った。あの物語の中での悲痛な言葉。
後輩にそんな事を言われて黙っているほど2人は冷たい人間では無い。 
「願おうな、金成」 
「ああ、又吉は信用して良さそうだ」 
3つの願いが、一つに重なった夜だった。